集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

『数学ゴールデン』。来客(5) (つくで百話 最終篇)

本0212。 暖かい日になりました。当地でも日中10度を超え,春の訪れを感じられました。  先日,『数学ゴールデン』を読みました。数学を題材にするマンガです。  数学オリンピック日本代表をねらう高校生が,“まっすぐ”に数学と向き合っていきます。  (感想・紹介はまたの機会に)  第2巻が楽しみです。  『つくで百話 最終篇』(1975・昭和50年7月 発行)の「民族と伝承」の項からです。 ********     来客   峰田好次 (つづき)  来客があるので市之丞が嚊座で,横座の与十郎との間に与吉が割り込み,市之丞と下座のはるとの間にせいが,はると並んで下座にとなが並ぶ。はるが薪をくべたので炎が一段と高まり,茶釜が音をたててたぎっている。 「そうやってコツコツ叩いても,どうしてもへえらねえ,次の奴をやっても同じだな。そこで,その大工は鋸で束のホズヘ縦に引目を入れた。一筋引目を入れて,簸めて玄能で叩くと,どうだ,今度はスーッとうまく納った。皆んな,そうやって結構入れてしまったとゆうがのう」 「てえした腕だのう」 「名人て言うだろうな」 「穴とホズが,ピッタリ仕とらにゃ,気がつまるなんてえことはねえにのう……道具も上等ずらが」 「それがまた面白れえ。おかしな,つまらねえ砥ぎ減らした道具だったとよのう……大工は“わざは盗め”と,教えられてるげなでのう,道具や道具作りから,わざを盗まあと思ったずらが,この話をした大工が,“手前の道具と取っ換えて呉れんか”と言ったら“オオよしよし”と,言って換えて呉れたげなで,そいつで念を籠めてやってみたが,名人大工のようには,どうしてもいかなかったての,ひどく感心こいて話したぞえ」  皆んな,なる程と感動して聞いたのだった。伝兵衛は,せいを見て話題を替え 「この子はいくつだったかなあ」と,話を一転させた。せいは俄かに自分が皆の前へ引出されたのに驚いて母親の袖に顔を押しつける。「せい幾つになったんか祖父さまが聞きたいげな,せいは幾つだったかなあ」はるが頭を撫で撫で言うのだが,答えようとしない。 「こないだは俺家へ来なんだなあ」 「歩くのはまだとても,あの山坂では無理だし,負んで行くのはこっちがえれえしのう」 と,母親が代って答える。 「そうだ,五つぐらいまではなあ──」 出された干柿を千切って口に入れ,残った歯で,もぐもぐしながら茶を呑み終ると, 「さあ帰るとしようか。」 「まあ ゆっくりしとくれ。」 「冬の日は短けえでのう。ゆっくり歩よんで行くと日一ペイだで。」  伝兵衛は,娘の婚家でも一度も宿泊したことはない。何んのかの言って帰ってしまう。 「それじゃ,大きにご馳走でござった。」 「それはそれは,ご大儀でござった。」与十郎が代表で挨拶を述ペ一同で一礼して終るのであった。  伝兵衛は再び草鞄を履き,はるが何やら,としのみを入れた袋を風呂敷包みにして渡すのを首に引掛け,「えれえ厄介だったの。ご馳走でござんした。与吉や,彼岸にはつぼ(田螺)拾いに来いよ」と,言って,一同の見送りを背に戸口を出て行った。  与吉は,この外祖父と一言も話せなかったことを物足りなく思うのであったが,ああした雰囲気の中で,子供の与吉が話を切りだす機会は見付からなかった。外へ出て見降ろすと,伝兵衛は杖をつきつき元気に下り,まだたっぶり残っている午后の陽ざしの中を去って行くのであった。 ********  注)これまでの記事は〈タグ「つくで百話最終篇」〉で  注)『続 つくで百話』の記事は〈タグ「続つくで百話」〉で  注)『つくで百話』の記事は〈タグ「つくで百話」〉で 【関連】   ◇藏丸竜彦(2月26日→数ゴル2巻発売だす?) (@ta2hikodesu)Twitter)   ◇藏丸竜彦(@kuramaru_ta2hiko)Instagram