集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

言葉で学ぶ。来客(2) (つくで百話 最終篇)

花0206。 天気のよい日で,風もなく暖かい一日でした。  算数・数学の本を読んでいて,大学の先生から聞いた話を思い出しました。  数学が苦手な学生を担当して,
○ このコースの学生は,数学が苦手だというより,も言語能力そのものが低いということだ。 ○ 数学が極端に出来ない学生というのは,実は「言語能力の低さが数学の試験によって露呈した」だけであって,問題は数学力ではないのではないかと思えてくる。 ○ 他の分野の勉強をするときも,新聞を読むときも,恋愛小説を読むときも,内容をきちんと理解できていないのではないだろうか。
と感じると述べていました。  さらに,数学は言語能力だけで学べるものではなく,数的な感覚もある程度必要で,その柔軟性がないと理解が広がりません。  先の先生が,数学が苦手な学生向けのコースで黒板に「 1 + 2 + 3 + … + 100 」と書きました。すると一人の学生が真面目な顔をして
 3と100の間には何があるのですか?
と聞いてきました。その上,他の学生からは笑いが漏れてこなかったそうです。  似た話を,高校の先生からも聞きました。関数(グラフ)の授業で,表に「 …−3 −2 −1 0 1 2 3 …」と書くと,「“…”はいくつですか」と質問があるそうです。何を表しているのか,それまで考えたことの無い生徒が多いのです。  算数や数学を「学ぶ」ことが,計算の「答え探し」だけになっている子供と親が少なくありません。ひょっとしたら先生もそうかもしれません。  子供達の「学び」は,言葉により伝え合い,深まります。  「言葉・言語活動」を大切にしていきたいと思います。  『つくで百話 最終篇』(1975・昭和50年7月 発行)の「民族と伝承」の項からです。 ********     来客   峰田好次 (つづき) 来客0206。 伝兵衛は風呂敷包みを引き寄せ, 「印しばかりでのう」と,差出した。 「忝うござんす」  こうして,老人二人は挨拶を交し終るのであった。 「さあ,火のそばへ寄っとくれや」  茶釜の茶は茶柄杓で汲み出され,湯呑みにそそいで客の傍らにおかれた。  市場は,冬期の寒風で茶の木が育ちにくいので,番茶の大方は与十郎家から届けられる慣例になっている。二人は今,同じ色,同じ味の茶を味わうわけである。 「水が少ねいようだが足りるんかのう」 「三軒して汲むもんだでのう。冬分はしまつせにゃァならんのだで。風呂も近所で順ぐりだわェ」 「風呂は俺家方も同じことだが,ここらは薪が楽だが,俺家あたりじや薪がねえでのう……隣は養子をもらったそうだのう。どんなあんべいだい」 「ああ,ようやるぞい,いい婿だえ」 「朝太夫さとこはどうだえ。跡取りがねえそうだが」 「あそこは,まあ駄目だらあのう。絶家覚悟のようだえ」  用水は伝兵衛の登ってきた門坂道を降って,源三郎家西側の湧水を大桶に貯めて,与十郎・源三郎・朝太夫の三軒が共同使用することにしていた。  春の彼岸,嵐が大雨を運んで来る頃から,霜月一ぱいは有りあまる量である。裏山の雑木林は殆んど原始林で鬱蒼としていて,渇水や山崩れ防止に供えられているが,十郎ヶ谷の三つの谷の湧き水のうち,ここが一番少量なので冬期には水不足になり勝ちである。三軒が,お互に頃合いを見計らって汲み合うのであるが,時には, 「源さとこにやられた。」 「上にやられた」など,女達が愚痴ることもある。  朝太夫家は,樽につめ背負って降りるのである。  風呂は,与十郎家と源三郎家が交互に立てて,立つ日には報らせあい, 「風呂を招んどくれ」 「さあ入っとくれ」で,土間の据風呂が焚き続けられるのである。  朝太夫家に風呂はない。三度に一度くらいしかやって来ない。 「兄さ,去年の世ん中 どうだったい」 「おお,それだて,大風で三度もやられたずらが,おまけに霜が早かった。まんだ刈らずに立ちんぼの田がいくつもあらあの。検見の役人も顔をしかめ,あれこれ引いては行かれたがのう。それも雀の涙,笹の露ちゅうやつでのう。大きな声は出せねえが,百姓泣かせのお取立てだ。これじゃ秋までどころか,夏までももたねえのう」 「ここも同じことだぞい。正月ぐれえは粟黍混ぜて餅も搗いただが,後は続かねえのう」 「馬こや牛のように,草でも食って命を繋なぐのだわさ……」  与吉が再び勢よく馳け込んで来て,与十郎の脇へ両足を回炉裡にかざして座り,伝兵衛の顔を見上げる。足も手も,ひびだらけに膨れ上っている。 「何処へ行っとった。」与十郎の静かな問いに 「山,おっかあや皆んなを呼びに行って来た」 「ごくろうだったな。中々すばしかい子供だのう。しとなったら庄屋もんだのう」  伝兵衛は独言のように,与十郎に聞かすように与吉を褒めた。 (つづく) ********  注)これまでの記事は〈タグ「つくで百話最終篇」〉で  注)『続 つくで百話』の記事は〈タグ「続つくで百話」〉で  注)『つくで百話』の記事は〈タグ「つくで百話」〉で