母の日。『52ヘルツのクジラたち』(町田そのこ・著)
よい天気の一日でした。
今日は“5月の第2日曜日”,「母の日(Mother's Day)」です。
日本で初めての「母の日」を祝う行事が行われたのは明治の末期頃で,大正となり一般に広まっていったと伝えられています。
子が生まれる瞬間に,母も生まれる。それまで彼女は存在しなかった。 女性は存在していたが,そこに母親は存在していなかった。 母親とは,全く新しい何かである。 The moment a child is born, the mother is also born. She never existed before.The woman existed, but the mother, never. A mother is something absolutely new -ラジニーシすべのの「母」に感謝 2021年本屋大賞の大賞作品『52ヘルツのクジラたち』(中央公論新社・刊)です。 出版社の紹介で,
52ヘルツのクジラとは―他の鯨が聞き取れない高い周波数で鳴く、世界で一頭だけのクジラ。たくさんの仲間がいるはずなのに何も届かない、何も届けられない。そのため、世界で一番孤独だと言われている。 自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれていた少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる―。と,タイトルの“52ヘルツのクジラ”の説明があり,「孤独」「愛」「魂」の物語へ誘っています。 主人公の三島貴瑚(きこ)は,昔祖母が暮らしていた大分県の小さな海辺の田舎町に移り住みます。そこで,静かに一人暮らそうと思っていたが…。
あの家で,静かに暮らすつもりで引っ越してきた。ひとりでそっと生きていきたかった。そのために,あの家を手に入れたのだ。不便なこともあるけれど,馴染んでいけそうな気がしていた。なのに,まさかこんな風に土足で踏み込んでくる人間がいるなんて。 「ムカつく」貴瑚の生い立ち,移り住むまでの暮らし…,胸が張り裂けそうな重く辛い話が続きます。 “虐待”をテーマに,家族や家庭,そして周囲の人々が描かれ,辛く苦しい話だけれど,どんどん引きつけられました。 そして,読み終わって優しい気持ちになりました。 “母の日”に,親子,家族,そして生きることを考えてみませんか。お薦めの一冊です。 読書メモ。立ち止まった。
○ だから,集団で三島さんを質問攻めにするくらいのことはすると思う。それで,必ず口出しまでする。しかもそれを良かれと思ってやるもんだから,性質が悪い。 ○ 穏やかに諭すような口ぶりで,優しく頭を撫でられた。しかしふたりの目は,笑ってはいなかった。だからわたしは,何度も頷いて言った。外では,絶対にひとに心配をかけません。 ○ 誰にも届かない歌声をあげ続けているクジラは存在こそ発見されているけれど,実際の姿は今も確認されていないという。 ○ 自分で食べられる,と言うように串を取って食べる子どもの顔を見つめる。この子と出会って,わたしは変わろうとしているのだろうか。 ○ 他愛もない会話や,真夜中の電話。その何もかもに彼の叫びがあった。 ○ 美晴に全てを告白したことで,どこかすっきりした自分がいる。(略)…なくなったわけではない。ただ,自分で抱えられる大きさになった。 ○ 「ひとというのは最初こそ貰う側やけんど,いずれは与える側にならんといかん。(略) でもあの子はその理が分かっとらんし,もう無理かもしれんねえ」 ○ だから,お願い。 52ヘルツの声を,聴かせて。
目次 1 最果ての街に雨 2 夜空に溶ける声 3 ドアの向こうの世界 4 再開と懺悔 5 償えない過ち 6 届かぬ声の行方 7 最果てでの出会い 8 52ヘルツのクジラたち【関連】 ◇52ヘルツのクジラたち|特設ページ(中央公論新社) ◇町田そのこ (@sonokosan3939)(Twitter) ◇本屋大賞