『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(石井光太・著)
朝は雨模様でしたが、昼前には日差しを感じられる天候の日でした。
日本語や言葉、その遣い方が気になることがあります。夏前に『日本語はこわくない』(飯間浩明・著)を読んで“言葉のアップデート”を意識しました。
以前のラジオ番組で『ルポ 誰が国語力を殺すのか』(文藝春秋社・刊)を話題にしていました。子供達の“言葉の環境”変化がさらに大きくなっていると述べていました。
先日、やっと読みました。
『ごんぎつね』の読めない小学生、反省文の書けない高校生…… ・オノマトペでしか自分の罪を説明できない少年たち ・交際相手に恐喝されても被害を認識できない女子生徒 ・文庫まるごと一冊の精読で画期的な成果をあげる全人的な教育……etc. 子供たちの言葉を奪う社会の病理と国語力再生の最前線を描く渾身のルポ! 今、子供たちを救えるか? 未来への試金石となる全日本人必読の書内容は、さまざまな取材をもとに、今の子供達の言葉の育ちを“ルポ”しています。 著者の指摘する“問題”や“危機感”に共感し、納得できました。 現職の頃、子供の“貧しくなる語彙”を感じていましたが、本書に登場するような“厳しさ”に直面しておらず、危機感まではいってなかったかもしれません。 今から“できること”は少なそうですが、探していきたいと思います。 本書が『ごんぎつね』の授業から始まり、そこから話が広がります。その発言、言葉は、同様に問題を感じますが、その授業が気になりました。著者が参観した場面を、
新見南吉は、ごんが見た光景なので「何か」という表現をしたのだ。 (略) 教員もそう考えて、生徒たちを班にわけて「鍋で何を煮ているのか」などを話し合わせた。と捉えていますが、何をねらって“話し合い”をさせたのか疑問でした。 子供達が「常識的に読めば…」という設定だったのか…。 子供は、悪魔や魔女が出てくる“おとぎ話”と重ねるしかなかったのでは…。 それは兎も角、言葉にまつわる場面がいろいろ出てきます。次の“言葉”のやり取りは、いかがですか。
LINEで、友達数人がメッセージのやり取りをしていました。 女子生徒J 明日、みんなで遊びに行かない? 女子生徒K 行きたい! 女子生徒J なんで来る? この後、Kさんは傷ついてしまいました。なぜでしょう。Kさんは、Jさんの“言葉”を、どのように聞いたのでしょう。 “想像”できますか。 LINEだから傷ついたのか、対面での会話でも傷つくのか…。 “言葉”も、“想像”も足らない子供が増えていると…。 ルポですので、本書に“答え”の記述はありませんが、後半に紹介されている取り組みから見出せる活動があります。 教育に携わる方々が参考にし、それぞれの活動を改善していくことで、子供達の“国語力”が改善みられるでしょう。 先生方、保護者のみなさんにお薦めの一冊です。 読書メモより
○ 年配の人にしてみれば、LINEのグループを外されたところで大したことではないだろうと思うかもしれない。 ○ こうした教育界を主導する人たちの間で行われている議論への違和感だ。つまり、そもそも学校現場で見られる子供たちの思考力の欠如や珍妙な解釈を、「読解力の低下」という問題だけに留めていいものかということである。 ○ 私が思うに国語力とは、社会という荒波に向かって漕ぎだすのに必要な「心の船」だ。語彙という名の燃料によって、情緒力、想像力、論理的思考力をフル回転させ、適切な方向にコントロールするからこそ大海を渡ることができる。 ○ 夕日を見た時に、「うわっ、ヤバ。エグ」としか考えられない子供と、「山影に沈んでいく夕日を、セミたちが押し黙って名残惜しそうに見つめているね。(略)」と考えられる子供では、世の中や内面のことを細部にわたって、深く知覚する力に差があるのは明らかだ。 ○ その症状が発達障害に類似していることから、精神科医の杉山登志郎は「第四の発達障害」と命名しているほどである。 ○ ここで考えなければならないのは、今の社会が子供に求めるものが一時代前と比べてはるかに大きくなっているという事実だ。 ○ そこで飛び交う言葉は、従来のそれのように人間の関係性に基づいて取捨選択されたものではなく、二次元の世界から氾濫を起こしてなだれ込んできて、深い思慮を伴わないままどんどん暴力性を帯びていく傾向にある。 ○ こうした人たちは、高いコミュニケーション能力が必要な“感情労働”に従事することが多いように思います。
目次 序章 『ごんぎつね』の読めない小学生たち 第1章 誰が殺されているのか──格差と国語力 第2章 学校が殺したのか──教育崩壊 第3章 ネットが悪いのか──SNS言語の侵略 第4章 一九万人の不登校児を救え──フリースクールでの再生 第5章 ゲーム世界から子供を奪還する──ネット依存からの脱却 第6章 非行少年の心に色彩を与える──少年院の言語回復プログラム 第7章 小学校はいかに子供を救うのか──国語力育成の最前線1 第8章 中学校はいかに子供を救うのか──国語力育成の最前線2 終章 コロナ後の格差と感情労働【関連】 ◇『ごんぎつね』の読めない小学生たち、恐喝を認識できない女子生徒……石井光太が語る〈いま学校で起こっている〉国語力崩壊の惨状(文春オンライン)