『国語辞典を食べ歩く』（サンキュータツオ・刊）

　晴れていましたが，雲の目立つ日でした。 　日曜に続いて名古屋に用事があって出かけました。 　先日の“街”と今日の“街”の人出のようす，店舗や飲食店の中…。 　“新しい日常”を感じます。 　“国語辞典”の話をしたり聞いたりすると，著者（サンキュータツオ）を思い出します。10年ほど前に『学校では教えてくれない！　国語辞典の遊び方』を読み，それぞれの特徴を楽しみ，言葉を楽しむことを知りました。 　書名の「国語辞典」，そして著者がサンキュータツオ氏であることを見て，『国語辞典を食べ歩く』（女子栄養大学出版部・刊）を手にしました。 　本書は，“食”に関わる言葉を「小型国語辞典ビッグ4」でどのように記述されているのか，中型，大型の辞書も交えながら読み比べています。 　その“違い”は，国語辞典の“個性”（編集理念）が表れていることを，分かりやすく楽しく述べています。

○ 岩波国語辞典──歴史好きで保守派の優等生 ○ 三省堂国語辞典──新しい言葉に敏感な現代っ子 ○ 新明解国語辞典──ワイルドで親切な個性派 ○ 明鏡国語辞典──雑学にも強いスマートな食通

　出版社の紹介では，

　国語辞典って、こんなにも個性豊か！ 　国語辞典はどれも似たり寄ったりだ、と思っていませんか？ だとしたらもったいない！ 国語辞典って、じつはとっても個性豊かなのです。 　引き比べると、「書かれなかったこと」が見えてきます。「行間」が浮かび上がってきます。その行間を、おおいに楽しんで、味わっていただければ幸いです。 　この本をきっかけに、ぜひあなたも「国語辞典グルメ」に！

　最初に登場する食べ物は，「ハンバーグ【名】」です。そこで注目しているのは「ハンバーグの「あの形」をどう表現するか」でした。 　あなたは，どんな形のハンバーグを思い浮かべますか。そして，どのように表現しますか。 　ビッグ4の記述を並べると…。 　そこに中型辞典の広辞苑第七版が加わると…。 　「なるほど。面白い。」と次の言葉にいこうとすると，

　ハンバーグよりももっと多くの人が食べている「ハンバーガー」で各国語辞典を開いてみると(略)

と話が広がっていきます。 　「そうくるのか…。面白い。」 　好きな食べ物，今日食べたもの，次の献立にするもの… 　どの言葉からも楽しめます。 　読書メモより，備忘録として。

○ あまりに日常的なものを国語辞典で調べる人は少ない。しかし，日常的だからこそ記述が難しい。 ○ 日本では油を使って調理すること自体がなじみがなかったので，「いためる」は「焼く」のとは別の調理方法で，ごく最近の概念だというわけだ。 ○ まさか岩波くんに「普通は」といわれるとは。普通ってなんだよ，普通って。しかも二つ焼いただけではダメで，二つ「並べ」ないとダメなのである。 ○ 国語辞典界の食通は…？　　食べ物にもトレンドはある。商品名でもなく，専門用語でもない料理の名前。それをどこまで国語辞典に載せるという線引きが，各国語辞典の個性の見せどころ。完全に独断で選んだ12の料理を「ビッグ4」で見てみよう。(表略) ○ たとえば「包丁を握る仕事」という表現がある。文字どおりの意味だと，ただ包丁の柄を握るだけでお金がもらえる商売のように読めてしまうが実際はそうではなく，料理人のことを指す。 ○ アワビは「美味」，マダイは「味がよい」!? ○ 国語辞典も，だれかの言説も，すべて「知るキッカケ」です。最終的に自分の頭で考え，自分で判断しなければなりません。その面倒くささを受け入れることが，知性なのではないかと思うのです。そう考えると，国語辞典は思考のキッカケが詰まりまくっている良書です。これはまちがいない。

　　　もくじ はじめに この本に登場するおもな国語辞典 第1章　人気メニューを引いてみよっ 　　ハンバーグ【名】／カレー【名】／お好み焼き【名】／コロッケ【名】　　ほか 第2章　付き合いの長い和のおかず言葉 　　佃煮【名】／豆腐【名】／生卵【名】／ポン酢【名】　　ほか 第3章　おやつ時間，なごみ時間 　　プリン【名】／ようかん【名】／コーヒー【名】／ロールケーキ【名】　　ほか 第4章　食具いまむかし 　　包丁【名】／やかん【名】／弁当【名】／ジャー【名】　　ほか 第5章　めん類大好きニッポン人 　　そうめん【名】／うどん【名】／ラーメン【名】／冷やし中華【名】　　ほか 第6章　食材からだどる日本文化 　　鯛【名】／鴨【名】／シシャモ【名】／ちくわ【名】　　ほか 第7章　食べる言葉，作る言葉 　　たべる【他動】／たたき【名】／さくさく【副】／塩梅【名】　　ほか column 01〜04 結びにかえて

【関連】 　　◇サンキュータツオ(米粒写経) (@39tatsuo)（Twitter） 　　◇『学校では教えてくれない! 国語辞典の遊び方』（サンキュータツオ・著）（2017/04/10　集団「Emication」）