桜満開。不思議な狩人 (つくで百話 最終篇)
「暑〜〜い!」
寒暖の変化に,まだ体がついていっていません。気温が上がり,暑い一日でした。
作手高原(標高500m)の桜も満開を迎えています。樹種や場所によりますが,いつもより早く開花しています。
明日から4月。感染予防をして,高原の桜を愛でに作手高原へお越しください。
2020年度の最終日,そして明日から2021年度が始まります。お手伝いしていることは,新年度が“期限”となります。「次の…」を捜しながらの新年度が始まります。もう少しお手伝いたいできることは…。
『つくで百話 最終篇』(1975・昭和50年7月 発行)の「昔話と伝説」の項からです。
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不思議な狩人
*「狩漁の達人犬千代さ」に続いて
山で狩などしていた者の中には,平地の人々が想像も及ばぬような不思議な感応や経験をもった人物があった。つい近頃聞いた話などもその一つである。実は,不猟つづきに弱り込んだ狩人たちが何処からか聞き出して頼みこんで来たのが最初で,評判になったと言うた。まだ四〇代の体の小締りに締ったというほか,格別見たところ変ってもいなかった。ただ不思議なことは,山へ入ったと思うと,猪のいるかいないかすぐ判ったそうである。鼻で嗅ぎ出すのだろうとも言うたが,話の様子ではそればかりでもないようだ。それについて,自分の知っている狩人の一人が言ったことがあった。猪の後を索めて歯乃をわけて行く時など,今の先,猪が通ったと言うようなことが,ふっと胸に浮ぶのが,殆んど間違いなかったと言う。そうした官能の働きで,所在を知ることは,驚く程確かだったそうである。しかも山を跋渉することの自由自在で,少しも倦むことを知らぬには,一緒に狩りをした者が,何れも舌を巻いたという。心持ち上半身を前屈みにした中腰の構えで,頭を前に出して小股に歩いて行く様子が,まことに尋常でなかった。如何な茨のボロウの中でも,たちまちくぐり抜けるにはとても真似など出来なんだと言う。犬千代と渾名があると言うから,千代何とかの名前らしいが,逢ったわけではないから詳しいことは判らない。南設楽郡川手の者だ,とは聞いた。
獣のことや猟の方法など,何から何まで気持ちのよいほど知っていたそうである。狩りをすますと同時に,三日ほどいただけで何処かへ去ってしまったと言う。お蔭で頼んだ狩人たちは,思いの外獲物があった。何なら毎年頼みたいと言うたとも聞いた。あまり珍しいから,いろいろな噂を聞いてみた。
生家は,村でもかなりな家柄だそうである。相当教育もあって,村長ぐらい出来るなどと言うた。ただ,持って生れた病と言うのか,狩をしたり魚を捕ることが好きなために,家にもいつかれないで方々を渡り歩いていると言う。至って仕事が嫌いで,宿屋を泊り歩いていても,一間に閉じ籠もって朝から酒ばかり飲んでいた。宿銭が溜った時分に,釣の道具を持って,ふいと出て行ったと思うと,晩方までにはびっくりするほど鰻をとって来たそうである。それで払いを済ますと,また暫らくは遊んでいたと言う。魚に不自由な山の中の宿屋などでは重宝がった。ただ長くいつかぬので困ると言う。鰻など一日に三貫目も,提げて来るかと思うほど,速く捕って来たと言うが,どうして捕るかなどと質問すると,ふっと無口になって,話そうともしなかったそうである。鰻にしても鯉でも,餌で釣っていたことは確かであったと言う。何だか悉く信じられないような点もある。
時とすると,まだ,こんな人がいたのである。
(早川孝太郎全集第四巻より) 峯田通悛
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