『戦前の教科書』(日下公人・著)
昨夜からの雨が降る朝でした。日中,雨は上がりましたが,曇りの日でした。
“昭和ブーム”が続いているか分かりませんが,いろいろな場面で「昭和」が語られることがあります。
その“昭和”は,戦後の高度成長時代を言っているように思います。
紹介するのは,さらに“前”の話,教科書を取り上げた『いま日本人に読ませたい「戦前の教科書」』(祥伝社・刊)です。
著者の日下氏は昭和5年生まれで,小学生時代に戦前の教科書を使って育った世代です。日下氏は,「大正から昭和初期にかけて,日本の義務教育は世界最高の水準にあった。教科書は大正デモクラシーを反映し,自由で平和な雰囲気が染み込んでいた。その中には現在でも学ぶべき点が数多くある」と,本をまとめた理由に挙げています。
この本の中では,戦前の国語や修身の教科書から,いくつかの文章が,当時の挿絵や言葉遣いのまま紹介されています。
“昔の教科書”を見ると,いつも感じることですが,「これが小学校低学年の子が読んでいたのか」という驚きです。
漢字(文字)や表現を書き換えても,現在の同年代には読みこなせないかもしれません。
戦前は,教科書は国定教科書であり,日本人全員が同じものを使っていました。多様化と個性重視の現代社会を同列にしてはいけないでしょうが,思うことは少なくありません。
「戦前の教科書」と聞くと,「軍国主義一辺倒なのだろう」という先入観を持つ人は少なくないと思う。しかし,それはまったく違う。 たしかに第二次世界大戦直前の1941(昭和16)年4月,それまでの尋常小学校が国民学校と改組されて以降は,武勇を鼓舞するような表現も増えたが,大正期から昭和15年まで尋常小学校で使われていた国語の教科書は,日本の国土や自然,またそれを愛でる心,優しさや協力する心を育む,「風流」と形容するのがもっともふさわしいものだった。このようにして,戦前の教科書に描かれた“情操”を育んできた内容が,いろいろと紹介されています。 どの時代にあっても,子供達が「自尊感情」「自己肯定感」を育む環境にあり,それをしっかりと持ちながら育ってほしいとの願いがあると思います。 その点からも,「戦前の教科書」は,良かったという方と良くなかったという方がいるようです。 しかし,それは「AかBか」の視点で論じるものでなく,“よいものは良い”と受け入れたいと思います。 「餅つき」(国語読本巻八 第十四課)のなかに,こんな表記がありました。
おかあさんは取粉をのし板に…待っていらしやる。 おぢいさんは大釜の火をたいていらつしやる。 「まあ,ついてむるがよい。」とおつしやつた。おそらく,この話に描かれてことに,「家庭生活は…」「社会は…」と否定的な評があるでしょう。 しかし,子供達が,国語の本を読みながら学ぶことの豊かさを感じます。 今の子供達にも,必要なことだと思います。 「現代」そして「未来(あす)」について考えることが多くありました。 子育てや教育,そして社会のありようを考える機会を与えてくれる一冊だと思います。
目次 第1章 国語がすべての基本である 第2章 世界最高水準だった日本の小学校教育 第3章 周りのものに目を向けなさい 第4章 あるべき日本人の姿を学ぶ 第5章 人間教育は知・情・意のバランス