旅の途中。
旅の途中です。
旅のお話は,また。
【ちょっと長い小咄】
ある日あるときのこと。一人者の家に盗人が入ったんじゃと。
盗人はまず押入れの柳ごうりを開けて見たが着物一枚入っておらんかった。
たんすの引き出しも,銭箱も家の中くまなく探したが,何ひとつ無い。
それでは勝手場で酒でも一パイと一升ビンを振ってみたが音ひとつせんかった。
「ええぃ,何んという家じゃ。」と盗人はブツブツ言いながら,それでも何かないかと探しておる物音に,亭主が目を覚まして,
「あぁ,ド,ドロボウ,ドロボウだっ。」と騒ぎ出したので,盗人はさっと戸板の陰に隠れたと。
すると亭主は,盗人が逃げ出してもういないものと思い,
「さぁてまあ,何もかもきれいに盗みよったわい。着物も銭も,おまけに酒まで飲みほしてしまいよって,早速,大家さんに届けておかにゃ。」と言いながら出かけようとした。
盗人はびっくりして,いきなり戸板から飛び出すと,亭主の首すじをひっつかんで,
「やい!亭主。お前は何んて大嘘つきだ。着物とられた,銭とられたと。何一つ無かったくせに,嘘つきは泥棒のはじまりだ!」と言って,ねじ伏せたんだとさ。
参考;「とんと昔の笑い話」