集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

『全員悪人』(村井理子・著)

龍馬0403。 気温が上がらず,寒い雨の日でした。  今年も,高知市桂浜公園に特別展望台が設置され「龍馬に大接近」が開催されています。  江戸時代から近代に導いた立役者は多くいますが,なかでも坂本龍馬は特筆すべき役割を担い,「好きな歴史上の人物」にあげる方が多くいます。  龍馬のブール姿の写真とともに,桂浜公園の龍馬像は有名です。  ゴールデンウイークに,龍馬と同じ目線から太平洋を眺めてはいかがですか。  ピンクの大きな4文字,その間からメガネをかけた怒った顔が描かれた表紙,そして帯には「認知症をめぐる家族のドラマ」とある『全員悪人』(CCCメディアハウス・刊)を読みました。  身近に認知症の方はいませんが,今年初めに『ボクはやっと認知症のことがわかった』(長谷川和夫/猪熊律子・著)を読んだり,長谷川さんのエッセイを手にしたりと,ちょっと気になる話です。  プロローグの前に「この物語は事実に基づいて書かれています。」の一文がありました。  物語は,主人公の「わたし」(81歳?),「お父さん」(88歳?),そして「息子」,その嫁の「あなた」が体験する(起こる)ことが,「わたし」の言葉で語られます。  「わたし」は認知症のようですが,その“覚え”はありません。
 家族が認知症になった。  対話から見えた、当事者の恐れと苦しみを描く。  “老いるとは、想像していたよりもずっと複雑でやるせなく、絶望的な状況だ。そんななかで、過剰に複雑な感情を抱くことなく必要なものごとを手配し、ドライに手続きを重ねていくことが出来るのは私なのだろう。これは家族だからというよりも、人生の先達に対する敬意に近い感情だと考えている。(「あとがき」より)
 著者の体験からのエッセイとされていますが,“認知症の人の言葉で綴られた小説”でした。  季節ととも移ろう「これは何?」「あなたは誰?」に,周りの方々が戸惑い,疲れていきますが,「あなた」は真面目に,そして真剣です。  もし,自分だったら…。  読書メモより
○ 知らない女に家に入り込まれ,今までずっと大切に使い,きれいに磨い上げてきたキッチンを牛耳られるなんで,屈辱以外の何ものでもない。 ○ 私がスーパーのレジでお金を払うときに,少しだけ時間がかかってしまうことをパパゴンはとても気にして,買い物には一緒にいきたくないとまで言うのだ。(略) でも,一万円札お千円札も,お金に変わりはない。何が問題なのか,私にはわからない。パパゴンの苛立ちもわからない。 ○ 息子が,どれどれと,お父さんの指さす場所を見て,「ここやな」と小さな声で言っていた。お父さんは泣きそうな表情で,「もう疲れた」と息子に訴えていた。 ○ 私は幼さの起こる鈴木さんの顔をもう一度見た。/悪い人ではない。 ○ 「奥さん,悪いものがずいぶんありましたよ。(略) サインしていただいて,ご印鑑をお願いします!(略) そちらもご確認くださいね。」 ○ あんたに何がわかるんだ。/私の人生に口出しする権利があんたにあるのか。こんな紙を貼り付けられた私の気持ちがあんたにわかるのか。あんたたちにわかるのか。 ○ これでお父さんと一緒に,この家でいつまでも幸せに暮らすことができる。 ○ 認知症はね,大好きな人を攻撃してしまう病なんですよ。すべて病がさせることなのです。
   もくじ プロローグ――陽春 第一章 あなたは悪人――翌年の爽秋 第二章 パパゴンは悪人――師走 第三章 白衣の女は悪人――新春 第四章 お父さんは悪人――晩冬 第五章 水道ポリスは悪人――早春 第六章 魚屋は悪人――初夏 第七章 私は悪人――盛夏 第八章 全員悪人――メモ エピローグ――晩夏 あとがき
【関連】   ◇村井理子 (@Riko_Murai)Twitter)   ◇右近 茜_illustration (@uk7ak)Twitter