集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

ほんとうに狸に化かされた話 (つくで百話 最終篇)

花0417。 予報より早く雨が降り出し,昼頃から強い雨になりました。この時期にしては“強すぎる”気がしましたが,被害が出ることはなかったでしょう。  午後,小学校の校長先生から「今年の活動」や「これからの取り組み」「地域との連携・協力」についてお聞きしました。  これまでの活動や成果を踏まえ,新しい活動や取り組みに歩み出しています。  地域の子供達が成長し,みなさんが元気になる教育活動であるよう,地域からの協力・協働を充実させていきたいいと思います。  よろしくお願いします。  『つくで百話 最終篇』(1975・昭和50年7月 発行)の「昔話と伝説」の項からです。  昨日の記事で「最後で…」と記しましたが,この原稿が落ちていました。これが最終記事です。次は,本書の「おわりに」を掲載します。 ********     ほんとうに狸に化かされた話    遠山義一  鳳来町の只持から海老へ行く山道を登って行くと,峠で四ツ辻になります。真直ぐに進むと海老へ,左は山中部落,右へ降ると玖老勢です。ここに大きな杉の木があって,その下に沢山の石仏が安置されており,至って淋しい所でしたが,峠まで辿り着くと,ここで一服するのが一般のならわしになっていました。  あたり一面には,大きな杉・桧などが生い茂っており,谷は深く,何かしら身の毛がよだつような所で,よく狐や狸に化かされたと言う人がありました。  明治の終りか大正のはじめの頃,玖老勢の青年が,この辺の炭窯の中に入って死んでいました。窯の口はふさいであり,天井に小さな穴があるばかりでしたから,とても人間の入れるようなものではありませんでした。それで狐に化かされてひっぱり込まれたのではないかと取沙汰されたものでした。  その頃,玖老勢の勘さという人が,この谷の中程から少し奥へ入った所で炭焼をしていましたが,明日はお節句だから一日休まにゃァならんと,炭窯の火加減をして山を降りました。昔から「横着者の節句働き」と言って,節句に休まないと皆に笑われたものですから,勘さもその習慣に従ったのでしたが,あくる朝になると炭窯の事が心配になって仕方がない。そこで、「一寸,窯を見てくるぞ。すぐ帰るから弁当はいらん。」と言って,ブラリと家を出ました。  窯へきてみると,まだ焼けない筈なのに,もう青煙になっているではありませんか。このままにしておいたら,明日朝までには灰になってしまう。勘さは家に帰ることもできないで,出炭の準備にとりかかりました。かれこれしている中に,午後二時近くになりました。腹がへってきた。今更ながら,弁当を持って来なかったことが悔まれました。 「おっかァが弁当持って未てくれりやァ良いがなァ。」と,つぶやきながら仕事をしておりました。 「おっとう,弁当持って来たぞい。腹がすいたらァ。」と,言う声に振り向いてみると,いつも使っている弁当袋を背負った女房が,窯のにわに立っているのでドキンときた。勘さは,グツト女房をにらみつけて, 「この古狸め,おれが腹がへったで独り言いったのを聞きやァがって,女房に化けて弁当持って来たなんてこきやァがる。その手にやァのらんぞ。おそらく馬糞でもへえっとるだろう。愚図愚図しとると鈍でブッタぎるぞ。」と,どなりました。 「この人ったら,何をたぶけとるだい。おらァほんものの女房だぞい。あんまりあんたの帰りがおそいで,弁当持って来ただァ,わしも炭出しを手伝ってあげるョ。」 と言うと,勘さは,いよいよいきりたって 奇石0415。「何をつべこべぬかしやァがる。化け狸め,俺に馬糞を喰わせて,手伝うなんてこきやがって窯の中へだましこまァなんて駄目だぞ。そばへくりゃァ鉈でたたっきるぞ。」と,腰の鉈に手をかける始末です。こうなったら女房も,どうすることもできないで勘さの仕事を見ているだけでした。 「よくも上手にばけゃァがったなァ,これじゃみんなが化かされる筈だ。おりゃァ肝っ玉があるで,てめェなんかにゃァ化かされんぞ。」と,空腹をかかえながら油断なく作業を続けて出炭を終り,次回の原木も詰め込んで窯口をふさぎました。  その間,女房は手伝いもできず,見ているばかりでした。 「さァ,すんだでけえるぞ。」  勘さは帰り仕度をしてから, 「おれを後から滝壷へつつこまァとしたって,その手はくわねェぞ。お前先にたってゆけ。」と,勘さは女房の後について帰ることにしました。少しも油断なく,鉈の柄をしっかりつかんで山道を急ぎました。谷はずれの水車小屋まで行ったら尻尾を出すに違いないから,その時,一気に鉈で切りつけるつもりで山を下りましたが,一向尻尾を出さない。勘さは眼をらんらんとかがやかせながら,はりつめた肩をいからせて後をつけましたが,女房は平気の平座で,そそくさと歩いています。  家へ着くと,戸間口の戸を慣れた手つきで引きあけて座敷へ上り込みました。 「なんだ,ほんとのお前だったんだか。」 「阿呆らしい。人が折角弁当をこしらえて持って行ってあげたんだに。」 「これがほんとうに狸に化かされたちゅうもんか。」  勘さは,てれくさそうにペコンと頭をさげました。 ********  注)これまでの記事は〈タグ「つくで百話最終篇」〉で  注)『続 つくで百話』の記事は〈タグ「続つくで百話」〉で  注)『つくで百話』の記事は〈タグ「つくで百話」〉で