『オルタネート』(加藤シゲアキ・著)
天気のよい一日でした。
「固定電話って何ですか?」
若者から問われて,それが“疑問”でしたが,使ったこともなく,身の回りにもないのが“普通”になってきたようです。
就職し,初めて(固定)電話に触れ,“電話に出る”ことが苦痛だという若者も多いようです。
電話に出ることも,「ハラスメント」につながるの…。
人気アイドルグループNEWSのメンバー加藤シゲアキ氏の3年ぶりの新作長編で,第164回直木賞,そして本屋大賞にノミネートされた話題作『オルタネート』(新潮社・刊)を読みました。
図書紹介などを読んでおけばよかったのですが,話題になっても内容を知らずに読み始めました。
最初に「主要登場人物」のページがあり,“新見蓉”から“憲一くん”まで12人が載っています。そこから,高校生が主人公で,“円明学園高校”が主な舞台になりそうなことが分かりました。
読み始めて2ページ目で,ダイキの言葉として「オルタネート」が登場します。題名にもなっている“オルタネート”ですが,会話に出てくるフロウ,コネクトなどから“今どきのネットの話”なのだろうと予想をつけて,先へ進みました。
高校生限定のマッチングアプリ「オルタネート」が必須のウェブサービスとなった現代。東京にある円明学園高校で、3人の若者の運命が、交錯する。 全国配信の料理コンテストで巻き起こった〈悲劇〉の後遺症に思い悩む蓉。母との軋轢により、〈絶対真実の愛〉を求め続ける「オルタネート」信奉者の凪津。高校を中退し、〈亡霊の街〉から逃れるように、音楽家の集うシェアハウスへと潜り込んだ尚志。 恋とは、友情とは、家族とは。そして、人と“繋がる"とは何か。デジタルな世界と未分化な感情が織りなす物語の果てに、三人を待ち受ける未来とは一体――。 悩み、傷つきながら、〈私たち〉が「世界との距離をつかむまで」を端正かつエモーショナルに描く。 “あの頃"の煌めき、そして新たな旅立ちを端正かつエモーショナルな筆致で紡ぐ、新時代の青春小説。3年ぶり、渾身の新作長編。話題作とはいえ,高校生を描く作品に,ちょっと無理して読んだかもしれません。
「具体的に言うと,スマホにある情報を全部オルタネートに提供するの。スマホにはその人のほとんどが集約されてるでしょ。例えば(略)」 「分かりやすく言うとね,自分だけのオルタネートを育てるってイメージ。(略) 私のオルタネートが育って,いつか本当に八十パーセント以上の人を探し当てたら,そのとき会ってみようと思っているの」高校生の心情に共感は難しかった(できなかった)ですが,料理人の父を持ち料理部部長の蓉,オルタネートで最高の相性の相手を探し求める凪津,大阪の高校を中退し単身上京してきた尚志,それぞれの視点で描かれる展開に引き込まれながら読みました。
10秒前! 9! 8! クリスマスキャロルはまもなく終わる。警備員たちはすぐそばまできていた。 (略) 7! 6! 「ねぇ!」 桂田の背中に声をかける。降る向いた桂田の顔はまだ頼りない。 (略) 5! 4! りんごがほんのり茶色くなり,急いで火から下ろす。手はもう震えていなかった。 (略) 3! 2! 1! (略) 一瞬の静寂を挟み,弾けるような拍手と歓呼の嵐があたり一面に広がると,やがて茫獏とした空へ抜けていった。今すでに高校生が使っていそうなマッチングアプリ「オルタネート」を題材に,若者の葛藤や渇望そして不安を描き,それが,どの時代を生きる者の“気持ち”にも通じるものであるようでした。 高校生になって(戻って),“今を生き,明日へ向かう旅”を愉しんでみませんか。
目次 1 種子 2 代理 3 再開 … 23 胸中 24 出発【関連】 ◇加藤シゲアキ『オルタネート』新潮社公式サイト ◇NEWS | Johnny's net (johnnys-net.jp) ◇直木三十五賞(公益財団法人日本文学振興会 - 文藝春秋) ◇本屋大賞