集団「Emication」別館

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狼の曝し首 (つくで百話 最終篇)

花0409。 今日も,よい天気でしたが,強い風の吹く寒さがありました。  昨日,「野山が萌黄色に…」と見えましたが,今日は,それが濃くなっているように感じました。陽の光にもよるのでしょうが,日に日に変わっていくようです。  明日は,どんな変化を感じられるかな。  『つくで百話 最終篇』(1975・昭和50年7月 発行)の「昔話と伝説」の項からです。 ********     狼の曝し首    佐宗候計  昔,むかし和田に,由三という裕福な山持がありました。由三さには男の子がなくて,京子と直子と云う二人の娘がありました。姉娘の京子が年頃になったので,婿を探しましたが,近所には頃合の若い衆がありませんでした。あちこち探し求めた揚句,山下の野田村の旧家安造の二男で,安吉という教養もある立派な青年が居ることをみつけました。  そこで,隣りの重助さを仲人にたのんで話してもらうと,すらすらとまとまり,その年の大安吉日を選んで,婚礼の式をあげることになりました。  一方,和田の村に新三と仙吉という二人の若い衆がありました。二人とも木樵や木挽をしていたので,由三さの山の仕事もしていました。そんな関係から,由三さの娘達とも心安くしており,ひそかに恋心を燃やしておりました。  二人は,常日頃、由三さが彼等を馬鹿にして,こき使うのを不満に思っていました。 「俺等が貧乏だちゅうて,小馬鹿にしとりゃァがる。いまいましい奴だ。」 「今度,婿さまが来ると言うが,くそ面白くもないなァ」などと,語り合っていた彼等は,婿人りの日の夕方,家を出て雁峯を下りました。  さて,婚礼の当日,和田村の由三家から仲人や迎え人が野田村の安造家へ行って,型通りの立ち祝(婿が家を出かける祝)をして,出発したのは日暮れ方でありました。昔の婚礼は大抵,夜分に行われたものでした。  その頃の雁峯道は,人や馬の通える程度の山道しかなかったので,婿殿の箪笥や長持・両替などは,手伝い人が肩で背負ったものでした。  新郎の安吉を中心として,両家の仲人・親類衆や近所隣りの人達に続いて,荷物運びの人足などが長い行列をつくって雁峯山を登って行きました。一行が臼子辻へ辿りついた頃には,短い冬の日はとっぶり暮れてしまいました。  臼子辻には,本宮山の一の鳥居がありました。ここで一服して行列をたて直し,提灯に灯をともして,いざ出発しようとして行手のこりとりば(水垢離をとつた所)の大杉の方をみると,根元にあった火の玉が,するすると上の方へ上っていきました。アツと,驚いているうちに下の方へ下ってきます。しばらくすると又,梢の方へあがり,また下ります。始めは月が出たのかと思っていましたが,あたりは真の闇ですから合点が行きません。気の小さいものはブルブルふるえあっています。しかし,仲人の重吉は責任上元気をだして, 「狐がいたずらしとるだ。心配ない。さァ出かけるぞ。」と,先頭に立って出かけました。  一行は,無事に和田峠を越えて由三の家近くまで来ました。そこで一旦行列を止めた重吉は,由三の家へ入って, 「どうやら狐がついて来たようだから,家へ入る時に鉄砲を二発ブッ放しておくれや。」と,たのんで一行の所へ戻ってきました。  いよいよ新郎の一行が由三家の門坂へ着いた頃,鉄砲があたりの静寂を破って,ドドンとひびき,続いてまた一発射たれました。これで狐も全く逃げたものと思われました。 寺子0409。 その夜、三々九度のお盃も目出度く終り,賑やかな披露宴は夜明けまで続きました。前日の夕方から姿を消していた新三と仙吉も,いつのまにか村の人たちに交って,振舞い酒をよばれて騒いでおりました。  婚礼の日から一週間ばかりたつと,新婦の京子が何となく気分が悪いと言って寝こんでしまいました。医者にかかったり,加持祈祷をしてもらっても,少しも良くなりません。かれこれしているうちに二ヶ月ばかりたちました。由三夫婦は,婚礼当日臼子辻の付近でおこったという狐火のことを思い出しました。婿の安吉に狐がついてきて,その狐の崇りで娘が病んでいると考えた由三は,仲人の重吉を頼んで安吉を離縁しました。それでもまだ心配だったので,村の菊次郎さのところにある狼の曝し首を借りてきて,京子の寝床の下において狐をぼい出すことにしました。  菊次郎さのとこには,ずっと前から狼の曝し首があって,これを病人の知らぬ間に床下に入れておくと,狐が逃げ出すと言われておりました。明治時代に,正伝院の住職の婆さんに狐がついて,無性に油揚など食べていた時にも,この狼の曝し首で奇妙に狐をおろしたと言われておりました。  後日,臼子辻の狐火と思われたのは,新三と仙吉のいたずらと言われるようになりましたが,あたら良縁を失った安吉さには,とんだ災難でした。 ********  注)これまでの記事は〈タグ「つくで百話最終篇」〉で  注)『続 つくで百話』の記事は〈タグ「続つくで百話」〉で  注)『つくで百話』の記事は〈タグ「つくで百話」〉で