若者の力。『滅びの前のシャングリラ』(凪良ゆう・著)
天気の良い一日でした。
第93回選抜高校野球大会が19日に開幕しました。選手宣誓は,仙台育英高校の主将 島貫丞選手でした。ライブでは聞けませんでしたが,3分12秒の宣誓文に思いを込め,言葉で「感謝」「感動」「希望」を届けました。
【関連】
◇第93回センバツ高校野球(毎日新聞)
◇ センバツLIVE! 毎日新聞×MBS (@SenbatsuLIVE)(Twitter)
◇ABC高校野球( ねったまくん ) (@koshienasahi)(Twitter)
今日ここに,高校球児の憧れの舞台である甲子園が戻ってきました。この1年。日本や世界中に多くの困難があり,それぞれが大切な多くのものを失いました。答えのない悲しみを受け入れることは,苦しくてつらいことでした。 しかし,同時に多くのことを学びました。当たり前だと思う日常は,誰かの努力や協力で成り立っているということです。 感謝。ありがとうございます。これは出場校すべての選手,全国の高校球児の思いです。 感動。喜びを分かち合える仲間とともに,甲子園で野球ができることに感動しています。 希望。失った過去を未来に求めて,希望を語り,実現する世の中に。 そして,この3月で東日本大震災から10年となりました。日本,世界中に多くの協力や支援をいただき,仲間に支えられながら,困難を乗り越え,10年前,あの日見た光景から,想像できないほどの希望の未来に復興が進んでいます。これからの10年。私たちが,新しい日本の力になれるように,歩み続けます。 春はセンバツから。穏やかで,鮮やかな春。そして1年となりますように。2年分の甲子園。一投一打に多くの思いを込めて,プレーすることを誓います。若者の思い・願い,そして若者の力の大きさと無限の可能性を感じます。 新型コロナ禍の今,若者の力が活かされ,広がっていきますように。 2021年の本屋大賞の候補作『滅びの前のシャングリラ』(中央公論新社・刊)を読みました。 白い表紙に,スプーンを持った赤ちゃん,その顔にイチゴの花と実,2匹の蜂が描かれ,ちょっと不気味な感じがします。そして,"滅び”とは何時なの,"シャングリラ”は理想郷でいいの,と気になる題名です。 題名の「シャングリラ」が第1章です。扉を開き,最初が
江那友樹,十七歳,クラスメイトを殺した。と,怖い一文で始まります。続く
死んでももまったく悲しくないやつだったが,自分の手で殺すことになるとは思わなかった。額や鼻の頭に汗が噴き出してくる。なんて未来だ。すごい世の中だ。もうなんでもありた。までの3行が,本文とは分けて綴られています。 「えっ,何なんだ。殺人の先にシャングリラ(理想郷)があるの。」 戸惑いながら読み進めました。 小説は4章で構成され,それぞれ主人公が異なります。
○ 江那友樹,十七歳,クラスメイトを殺した。(第1章) ・──ぼくは一生,搾取される羊として生きていくんだろうな。 ・妄想の中の獣じゃない,弱い羊のままのぼくで荒野を駆ける。 ○ 目力信士,四十歳。大物ヤクザを殺した。(第2章) ・──信士,頭ってのは考えるためについてんだぞ。 ・生まれて初めて,俺は嬉し泣きというものをしている。 ○ 江那静香,四十歳。世界は死んだ人間ともうすぐ死ぬ人間に二分されている。(第3章) ・──あたしたちは,なんで,まっすぐ生きられないんだろう。 ・なのに,それでも,今あたしはとてつもない幸せを感じている。 ○ 山田路子,二十九歳,恋人を殺した。(第4章) ・そして第二章,アイドル桜庭美咲という暗黒時代がはじまる。 ・幕開けなのか,幕引きなのか,幻聴かもしれない音楽をあたしは従える。それぞれの暮らしを語り,これまでを思い起こします。そこで起こる"一つの時”が,4人の主人公を繋ぎます。 突然に宣告された「一ヶ月後,小惑星が地球に衝突します。」。 人類が滅亡するまでの1か月間,世界はパニックに陥り,混乱状態のままカウントダウンが進みます。その"世間”と"自分”とが描かれます。 読み終えて,「もし自分だったら…」,「自分の知らない自分は…」,いろいろ考えました。 人類滅亡までの1か月を,主人公に寄り添って過ごしてみませんか。 家に帰らずにいる藤森雪絵に,江那静香が「あれから親と連絡取ってる?」と尋ね,その答えの後
「文字だけ見てると,本当に嬉しくなるの。お父さんもお母さんも真実子も,ほんとうにわたしのこと愛してくれるって思えるから。本当の家族みたいで,すごく嬉しくなるの」 だから声は聞きたくないし,顔も見たくないと雪絵ちゃんは言う。実際に声を聞いたら,顔を見たら,余計な情報が入ってくるからと。あたしは黙って聞いている。とありました。 この「文字だけ」「余計な情報」から,オンライン授業やテレワークへの"これから”を創っていく方向がみえるような気がしました。 江那友樹(第1章)の語る「いじめ」や「スクールカースト」は,教育に携わるみなさんと考えたい話でした。 【関連】 ◇滅びの前のシャングリラ 特設ページ(中央公論新社) ◇本屋大賞(NPO 本屋大賞) ◇凪良ゆう (@nagira_yuu)(Twitte)
『滅びの前のシャングリラ』が2021年本屋大賞ノミネート作に選ばれました。発売前からプルーフを読んで応援してくれた書店員のみなさま、頑張ってくれた担当さんや版元さん、読んでくれた読者さま、ありがとうございます。なんかもう嬉しくて言葉が出てこないです。発表までの間を大事に過ごします。 pic.twitter.com/lE7EeZB6kf
— 凪良ゆう (@nagira_yuu) January 21, 2021