「かまいたち」(つくで百話)
雲の目立つこともありましたが,天気のよい日でした。さらに,“暑さ”を感じる一日でした。
出先に向かう時,普段は通らない県道を通りました。走り始めて15kmぐらいの間,対向車に一台も会いませんでした。
少し心配になりました。
「もし,ここで脱輪したら…。」
携帯電話も圏外かもしれません。
脱輪なら圏外ではない所まで歩けばJAFなどに助けを求められますが,急な体調不良のときには,助けを求める相手と出会うのは遅くなりそうです。
この道路を通る方は少なくないはずですが,今日のような状況もあることに驚きました。
こういう場合の“最善の非常時対応”は…。
『つくで百話』(1972・昭和47年 発行)の「怪奇物語」から紹介です。
※ 「城山数え歌」「作手数え歌」の前に掲載する記事でしたが,抜けてしまいました。
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かまいたち
これも子供の時にみたことですが,私の家へ仕事に来るお爺さんの脛に大きな古傷があり「かまいたち」にやられたんだといっていたことを不思議に思いました。
かまいたちというのは,別段,打ちつけもしないのに,突然皮肉が裂けて,切り傷ができる現象で,昔は魔の鼬の仕業と考えられて居ました。越後七不思議の一つでもありまして,信越地方に多い現象でありました。これは部分的に発生した小さな真空状態のような所に,身体が接触しました時,身体内外の圧力のアンバランスから肉体の一部が破れるのであろうといわれでおります。それにしても,いつの時代にか,これにいたちの名を冠せられたことは,彼等(鼬族)にとっても誠に感慨無量なものがあったことでしょう。
昔から,上州は空ッ風が名物,信越地方も複雑な地形ですのでそこには気象的にも特殊の現象が屡々発生するのかも知れません。作手地方にもあったようです。 (鈴木太富)
附記 かまいたちと私 小学校四年生の晩秋のことでした。私が在籍した高松尋常小学校の狭い運勣場にはちょっとの高低があって,落葉が風のため吹き散らされておりました。その日は,巻き風が時々起りまして,落葉をかかえた風が漏斗状に捲きあがることもありました。放課の時間に,友達と鬼ごっこをしていた私は,巻き風の中心へ走りこんだ瞬間に,左膝をついて,バッタリ倒れました。その頃は,洋服がなくて,私服で通学していましたので走る時などには脚部は全部露出していました。起きあがるために膝をたてた私は,ビックリしました。 私の左膝の真ん中辺に三日月型の傷ができていました。長さ五センチ,中央部の幅一センチ位の部分は肉がなくなって,白い骨がみえておりました。 疼みは全然なく,出血も殆んどありませんでした。それでも,この傷をみて,私は大声で泣き出しました。 校長先生が,職員室から,とび出して来られました。そして私の傷をみると「かまいたちだ。」と申されました。先生は,黄い粉──ヨードフォルムか──を傷口へぬりつけて,繃帯をして下さいました。私は早退して家へ歩るいて帰りましたが,家へ着いて膝頭をみますと,大豆粒ほどの大きさで繃帯に血がにじんでいましたが格別疼痛は感じませんでした。それから幾日かの間,川尻の神谷医院へ通って治療をうけまして傷は,全治しましたが,今でも三日月型の古傷は残っております。 (峯田通俊)******** 子供の頃,傷を負ったことに気づかない“傷”をすることがあり,それを「かまいたり(鎌鼬)が…。」と言われて,納得していました。 屋外で夢中になって遊んでいることで気づかなかったのだと思いますが,鎌を振り回す生き物が潜んでいるのだと警戒して過ごしました。 今の子供達は,かまいたちに気をつけて過ごしているでしょうか。 注)これまでの記事は〈タグ「つくで百話」〉で 【関連】 ◇越後七不思議(Wikipedia)