『「利他」 人は人のために生きる』(瀬戸内寂聴/稲盛和夫・共著)
寒い朝でした。今日も風が強く吹きましたが,日中は日差しがあって気温より“暖かく”感じられました。
3月最終週は,暖かくなるかな。
今日,いろいろな方とお話しすることがあり,いろいろ考えさせられました。
声をかけられて,「もっと上手な返事(応答)ができたらいいのに…。」と反省することが多く,“鈍くなっていた”ようです。
「わくわく」「どきどき」の多い暮らしを意識して過ごさないといけないですね。
そんななかで,「利他」を思いました。
り‐た 【利他】 1 他人に利益となるように図ること。自分のことよりも他人の幸福を願うこと。 2 仏語。人々に功徳・利益を施して救済すること。特に、阿弥陀仏の救いの働きをいう。古い本ですが,魅力的な生き方をされている二人が“震災”からの思いを語る『利他 人は人のために生きる』(小学館・刊)があります。 本書からは,「「自分のため」ではなく「誰かのため」に生きよう」とのメッセージが伝わってきます。作家の瀬戸内寂聴氏(当時 89歳)と京セラ名誉会長の稲盛和夫氏(当時 79歳)の対談がまとめられ,震災後の日本人の新しい生き方を語っています。 “寝たきり”だった瀬戸内氏,京都にいた稲盛氏,そこときのことから始まっています。 被災地に立って思うこと,JALの立て直しから願うこと,その先に日本人の“利他”が浮かんできます。
天台宗では「忘己利他」という言葉があります。「忘れる己」と書いて,それは普通に読んだら「ぼうこ」だけれども,天台宗では「もうこ」と読むんですね。それに「利他」が付いている。日本天台宗の宗祖,伝教大師最澄の「山家学生式(さんけがくしょうしき)」という論文の中に「好事は他に与え,悪事は己に迎え,己を忘れ他を利するは慈悲の極みなり」という教えがあります。 自分のことは置いておいて,とにかく人のためになるようなことをしましょうっていうことです。瀬戸内氏は,説法で「思いやりの大切さ」をいつも語り,それは「想像力」なのだと言われます。さらに,「想像力=思いやり=愛」だと。 想像力は生きていくうちにだんだん減っていくもので,それを防ぐには「読書」が一番良いと述べています。 自分が体験しなければ分からない“痛み”は多いけれども,それをすべて体験することはできませんし,“痛み”に会わないことに越したことはありません。 だからこそ,自分の体験・経験をもとに,相手の“痛み”を想像できる力をもつことが大切なのです。
震災直後の被災地で最も印象的だったのは,被災者の皆さんの姿です。食料やガソリンなどの物資が不足して,日々困窮していたにもかかわらず,略奪や暴動が起こることもなく,秩序を守って忍耐強く行動しておられました。 あれやこれやと不平・不満を言う前に,助けに来てくれたボランティアや自衛隊,警察,消防の隊員たちに感謝の言葉を伝え,地獄のような現実を前にしても,人間性と礼節を失わなかった。 阪神・淡路大震災の時もそうでしたが,今回の震災でも,毅然と行動する日本人の姿が世界中から称賛されました。これは,日本人の一人として,ほんとうに誇らしいことでした。こうした日本人の行動に,これからの“利他”の思いがみられます。 これからの日本人の生き方を変える潜在力を持っています。しかし,「利他」の成就は思いの外,難しいことで,「利他」と「利己」は紙一重だといいます。
世の中はもっと複雑で,いくら善いことをしても,生きているうちにその報いなんて返ってこないんですよ。 そういうものを期待しないで,善いことをしなさいと。それが,無償の行為なんですよね。 とにかく,「他人に善いことをしたら,自分にも善いことが返ってくる」なんて思うのは,もうすでに,善い報いを期待している,利己的な考えでしょう? そうじゃない。自分のために何かを期待したって駄目なんです。本書が著された頃(とき)から時間(とき)が過ぎ,人々の思い・想いや在り様は変わってきました。 それでも,二人の語りに学ぶことは多くあると思います。 瀬戸内氏,稲盛氏とともに,「生き方」「幸せ」について考えませんか。
目 次 まえがき──稲盛和夫 第1章 震災を経験して 今こそ、勇気を 「千年に一度」の悲しみを乗り越える方法 第2章 逆説の人生観 なぜ、いい人ほど不幸になるのか どんな悪い世の中もいずれは変わる 第3章 震災後の生き方 「利他」のすすめ 人は“誰かの幸せ”のために生きている 第4章 新・日本人論 日本を変えよう、今 「小欲知足」と「慈悲」を忘れた日本人へ 第5章 「利他」の実践 人はなぜ「働く」のか “誰かのために尽くす”ことが心を高める 第6章 死と生のあいだ 「天寿」と「あの世」の話 「生老病死」の四苦とどう付き合うか あとがき──瀬戸内寂聴