集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

『蔦屋』(谷津矢車・著)

麺1012。 「晴れると思ったのに…。」  朝から雲が覆って,“寒〜い日”でした。天気予報には「晴れ」もあったと思うのですが,そうではありませんでした。  体の温まる食べ物が恋しくなる天候でした。  今日の寒さには体が驚いていました。気温の変化にうまく合わせて過ごしたいと思います。  みなさんのところは,寒くなかったですか。  図書室の書架で見かけた『蔦屋』(Gakken・刊)を読みました。  以前,「画のない漫画を読んでいるような感覚だった。」と書評にあった記憶がありますが,その通りでした。  江戸時代の代表的な版元 蔦屋重三郎の生きざまを,地本問屋 小兵衛を通して描かれます。  「あたしァ 江戸をそっくり吉原にしてやろうと思ってるんだ 蔦重(蔦屋重三郎)が手がけた話題作にかかわる大田南畝恋川春町山東京伝喜多川歌麿葛飾北斎東洲斎写楽なども登場します。当然ですが,駆け出しから売り出し,人気作家・絵師としての成長(?)も,蔦重の“ねらい”に乗って出てきます。
「あの商人さんは,字は読めるっていうのに本は読まない。つまりは,本を読むっていうのは,あの人にとっては娯楽でもなんでもない雲の上の物事なんですよ」 「あー,それはなんとなく分かった」お春は手を叩いた。「でも,それが何?」 「でも,あの人,講談や落語は聞くって言ってた。ってことは,あの人だって,作り話が嫌いなわけじゃない。それどころか結構すきなんですかね」  言われてみればそうだ。 「ああいう,本は読まないけれど作り話が好き,っていう人たちを戯作の世界に引きずり込めば,相当の売り上げが期待できるんじゃないでしょうか」
 魚屋のようすを見て,そこにヒントを見出し,作品(商売)を考え出します。
 山師,ともいえる。  だが,小兵衛の心中に湧き上がる言葉は,そんな俗っぽいものではなかった。重三郎が本に向ける思い,それは,商いとはかなり距離のある何か。そう,それはさながら,祈りにも似ていた。届くはずのない祈り。あるいは,大群に一騎駆けでも挑もうとする武者の気宇にも似ている。
 この“祈り”から話題作が生み,人気作家となる人を見出してきたのでしょう。
「それに」重三郎は悪びれずに云った。 「そっちの方がおもしろいからに決まっているでしょう?」  まるで,風みたいなやつだ。小兵衛は心中で呟いた。  捉えどころがなく,掴もうとすればもうそこにはいない。そのくせ,懐にひゅるっと忍び込んできて,こちらの脇をくすぐっていくのだ。  そんなあんただから,俺は──。
 「そっちの方がおもしろいから」と選ぶ。考える。そういう生き方は,楽しいだろう。  重三郎の“見えているもの”が,同じように見えたら,それは辛いのかもしれないが,わくわくする気持ちが勝ることだろう。そして,時間は,どれだけあっても足らないかもしれない。  選ぶのは「おもしろい」ものを。そして楽しい生き方をしていこう。
蔦屋1012。

【関連】   ◇『蔦屋』(谷津矢車・著)Facebook)   ◇谷津矢車(戯作者/小説家) (@yatsuyaguruma)Twitter