集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

『最後の秘境 東京藝大』(二宮敦人・著)

花0127。 晴れてはいますが雲の多い空でした。  朝,「今日は暖かい。」と感じましたが,気温は氷点下でした。数字に表れた温度はと別に“肌の感じるもの”があるようで,日中の気温上昇を予感させる感覚でした。  昨日,日展を観たり,ゴッホゴーギャンの作品を楽しんだりしたことに続けて“芸術”に係る本の紹介です。  “にぎやかな表紙”に,タイトルの「東京藝大」「秘境」「天才」「カオス」の文字が置かた『最後の秘境 東京藝大:天才たちのカオスな日常(新潮社・刊)です。  芸術系大学の印象は「“ちょっと”変わった人が多い」であり,その中でも“極めつけ”なのが東京藝大のように感じています。  その“生態”を,在校生との会話(インタビュー)と潜入して見たことが述べられています。  そこは「ただ事ではないこと」「只者ではない人物」が普通に集っている楽園でした。
入試倍率は東大の3倍! 卒業後は行方不明多数!! 「芸術界の東大」の型破りな日常。  才能勝負の難関入試を突破した天才たちは、やはり只者ではなかった。口笛で合格した世界チャンプがいると思えば、ブラジャーを仮面に、ハートのニップレス姿で究極の美を追究する者あり。お隣の上野動物園からペンギンを釣り上げたという伝説の猛者は実在するのか?  「芸術家の卵」たちの楽園に潜入、全学科を完全踏破した前人未到の探訪記。
 「1.不思議の国に密入国」から始まる探訪記は,まず左側の「美校」と呼ばれる美術学部,右側の「音校」(音楽学部)の“大きな違い”が述べられます。ここで,さっそく驚き。  美校の話で,こんなことがありました。
 彼らの姿を見ていると,自分の頭がひどく固くなっているようでショックを受ける。何事もお金を使うという前提で考えていたことに気づくのだ。 (略) 会場の裏手の棚に,トロフィーが飾られていた,「彫刻科ボウリング大会優勝」と書かれている。 「こういうトロフィーのほうが,欲しくなるねえ」  僕はしみじみと言った。妻が頷く。 「なんたって,准教授の手作りだからね」  そのトロフィーは一本の木から削りだされたもので,ボウリングのピンの形に美しく磨き上げられていた。
 美校では「必要なものは作ればいい」のであり,道具,作業台などはもちろん,スプーンや机なども,“ジャストサイズ”で仕上げていくのが“普通”です。  読書メモより
・ほぼ全員遅刻の美校と,時間厳守の音校。美校と音校の合同教授会議では,喧嘩にならないのだろうか? ・それはできて当たり前。なぜなら努力で何とかなる部分だから。  藝大が求めているのは,それを踏まえたうえでの何か,才能としか表現できない何かを持った学生だ。 ・誰かに認められるとか,誰かに勝つとか,そういう考えと離れたところに二人はいるようだ。  あくまで自然に,楽しんで最前線を走っていく。  天才とは,そういうものかもしれない。 ・三重野さんはその時,ピアノという楽器に感じていた限界を覆されたという。 「ああ,ピアノってこんな音も出せるんだなあ,って。(略) 伝えたいものを演奏で伝えられるようになる。そのために練習するんです」 ・この技を沓名さんは「タバコミュート」と呼んでいる。ガムテープのかけらと言っていい,ほんのわずかな調整。たくさんの楽器があるなかで,何人の観客が太鼓の音の違いに気づくかさえわからない。だが,演奏者は決して手を抜かないのだ。 ・仮面ヒーロー「ブラジャー・ウーマン」(略)  「バカ真面目って言うんですかね。真面目にバカをやろうと思ったんですよ」(略)  「自分の人生と作品って,繋がっているんですよ。血管で繋がっているみたいに」 ・「音校の人って,いつもハイヒールだし,お洒落ですよね」  ある学生に何気なくそう言ったら,こんな言葉が返ってきた。  「ああ,それはお洒落だけでなく,(略) 」  彼らの日常は全て,本番に向けた練習なのかもしれない。トライアングルを鳴らす時,履いていく靴を選ぶ時,彼らは人知れず精神を研ぎ澄ませている。  そんな人を,音楽家というようだ。
 大学案内ではないし,本書を読んでも藝大に入れるようにはならないでしょう。  創造的になったり,人生の指針が得られたりもしないでしょう。  でも,「こんな人がいるんだ」「こんなことがあるんだ」と読んでいて楽しくなります。  未来(あす)をみつめる中高生にも,お薦めの一冊です。
    目次 はじめに 1.不思議の国に密入国 2.才能だけでは入れない 3.好きと嫌い 4.天才たちの頭の中 5.時間は平等に流れない 6.音楽で一番大事なこと 7.大仏,ピアス,自由の女神 8.楽器の一部になる 9.人生が作品になる 10.先端と本質 11.古典は生きている 12.「ダメ人間製造大学」? 13.「藝祭」は爆発だ! 14.美と音の化学反応
【関連】   ◇東京藝術大学   ◇二宮敦人 (@atsuto_ninomiya)Twitter