集団「Emication」別館

楽しく学び,楽しく活動する,笑顔の集団「Emication」。 ふるさとの自然,歴史,風俗などお伝えします。読書や豆知識の発信もしていきます。 活動する人,行動する人,その応援と支援をする集団「Emication」。

『つくで百話』(はじめに)

 昨日から紹介を始めた『つくで百話』の「はじめに」は,編集者の原稿です。それを紹介します。  次の写真は,最初に載っている一つで,「作手村の中心点」とキャプションが付いています。
口絵0414。
 では,「はじめに」です。
 三州設楽郡作手郷(現愛知県南設楽郡作手村)は奥三河の玄関口にあたる秀麗の別天地でありました。その西南端に聳えたつ本宮山を基点として展開する広茫一一七平方キロメートルの作手郷は,平均標高五〇〇メートル,豊饒の水田地帯の作手高原を中心に,南北には空を被う原始林と共に山紫水明の渓谷美を擁しておりました。  作手郷の開発は,遠く石器時代に遡ります。これまでに村内数ケ所から石芹,石矛,鏃石等が発見されておりますし,繩文,弥生時代の土器類も至る所で発掘されております。降って農耕時代になりますと,みはるかすまでに広い高原湿地帯は,稲作の適地として,いち早く開発されました。上古,日本武尊が御東征の砌りには,この地方に勢威を張っていた米福長者という豪族がありまして,尊のために,数多の鏃を献上している古事なども,作手郷が早期開発されたことを物語っていると思います。  古来,どこの国,いずれの民族も,夫々の神話や伝説を数々,語り伝えております。この作手郷にも古い歴史,美しい郷土を背景とした伝説や昔話が沢山のこっております。これらを拾い集めたものが「つくで百話」一巻となりました。これらの伝説や昔話には,歴史的考証や科学的うらづけを欠いたものが少くありません。みる人によっては,荒唐無稽の戯言として一笑に付せられることになるかも知れませんが,私は伝説や昔話はこれでよいと思います。  世界的文献である旧約聖書の創世記にしても,わが古事記にいたしましても,その宇宙萬物が創造化育されていく過程の記述など,今日の科学理論だけでは,到底解明されないものが多々存在すると思いますが,私共は,その正否を論ずるよりも,こういう立派な記録を後世に遺した古代人の雄渾卓絶の思想理念に絶讃の拍手を送りたいと思います。また浦島太郎が潜水具もつけずに亀の背に乗って海底に潜入した話も,素直に,そのままうけいれたいものと考えています。こういう観点から,わが作手郷に遺る伝説や昔話にみられる論理の矛盾や表現の素朴さも,そのままにうけいれて,そこに,滲みこんでいる昔の人たちの敬虔な暮し方,逞くましい生活力を偲びたいと思います。  本書に収録することのできなかった幾多の資料も,まだ,あちこちに残っていることと思います。いつか有志諸彦の御協力を得て,これを採録する機会を得たいと念願しております。  終りに,本書刊行について,貴重な資料を提供して下さった方々並に執筆してくださった各位に深甚の謝意を表明いたします。   昭和四十六年仲秋   峯田 通俊
 次回から,本編の紹介を始めます。 注)これまでの記事は〈タグ「つくで百話」〉で