集団「Emication」別館

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『バタン島漂流記』(西條奈加・著)

桜エビ1116。 これまでに読んだ著者の作品とは趣きの違う『バタン島漂流記』(光文社・刊)を読みました。
 「板子一枚下は地獄」 ──それが船乗り稼業。どんな過酷な遭難であろうと必ず生きて帰る。  荒れ狂う海と未知の島、そして異国の民。ため息すら、一瞬たりとも許されない。  船大工を志すものの挫折し、水夫に鞍替えした和久郎は、屈託を抱えながらも廻船業に従事している。  ある航海の折、船が難破してしまう。  船乗りたちは大海原の真っ只中に漂う他ない。生還は絶望的な状況。  だがそれは和久郎たちにとって、試練の始まりに過ぎなかった……。  史実に残る海難事故を元に、直木賞作家が圧倒的迫力で描く海洋歴史冒険小説。
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バタン島漂流記 [ 西條奈加 ]
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 表紙を開くと、そこに「颯天丸の漂流経路予想図」(地図)が載っています。江戸・下田・三河沖に来て、そこから黒潮に乗って太平洋を進みバタン島へと漂流する経路です。
絵図1116。

 この小説は、江戸時代 四代家綱の世に、江戸で尾張家御用の植木類を積み込んだ弁才船が三河沖で遭難し、フィリピン・バタン島まで33日間の漂流を強いられた史実を元にしています。  小説では、船頭の志郎兵衛、楫取の巳左衛門、賄の久米蔵、碇捌の五郎左、八番水夫の淀吉、炊の桟太 など、名前は異なりますが、出身地や年齢は史実の通りに描かれているそうです。
 江戸の冬景色が、ゆらゆらと上下しながら遠ざかる。  十月も末、海風は相応に冷たかったが、空はよく晴れていた。
 寛文8年(1668年)10月28日の朝から始まります。  江戸から尾張に向かう、船頭はじめ15人が乗る5百石廻り船「颯天丸」が、途中で難破してしまいます。  漂流し、辿り着いたのがフィリピン北部のバタン島に流れ着きます。
「馬鹿野郎、忘れたか? おれたちはな、生きているだけで儲けものなんだよ。十五人の仲間が、ひとりも欠けることなく島に辿り着いたことは、頭の誇りなんだ。病も怪我もなく、こうして達者でいる。それだけで、十分さ」
 その島で…。  どのようにして日本に戻るのか…。  鎖国の日本へ戻った彼らを待ち受けていたのは…。  そして…。  彼らの知恵と技術、そして逞しさに、勇気がもらえました。思わず涙が…。  お薦めの一冊です。 【関連】   ◇『姥玉みっつ』(西條奈加・著)(2024/05/06 集団「Emication」)   ◇『隠居おてだま』(西條奈加・著)(2023/08/27 集団「Emication」)   ◇『心淋し川』(西條奈加・著)(2021/03/11 集団「Emication」)