「板子一枚下は地獄」 ──それが船乗り稼業。どんな過酷な遭難であろうと必ず生きて帰る。 荒れ狂う海と未知の島、そして異国の民。ため息すら、一瞬たりとも許されない。 船大工を志すものの挫折し、水夫に鞍替えした和久郎は、屈託を抱えながらも廻船業に従事している。 ある航海の折、船が難破してしまう。 船乗りたちは大海原の真っ只中に漂う他ない。生還は絶望的な状況。 だがそれは和久郎たちにとって、試練の始まりに過ぎなかった……。 史実に残る海難事故を元に、直木賞作家が圧倒的迫力で描く海洋歴史冒険小説。
この小説は、江戸時代 四代家綱の世に、江戸で尾張家御用の植木類を積み込んだ弁才船が三河沖で遭難し、フィリピン・バタン島まで33日間の漂流を強いられた史実を元にしています。 小説では、船頭の志郎兵衛、楫取の巳左衛門、賄の久米蔵、碇捌の五郎左、八番水夫の淀吉、炊の桟太 など、名前は異なりますが、出身地や年齢は史実の通りに描かれているそうです。
江戸の冬景色が、ゆらゆらと上下しながら遠ざかる。 十月も末、海風は相応に冷たかったが、空はよく晴れていた。寛文8年(1668年)10月28日の朝から始まります。 江戸から尾張に向かう、船頭はじめ15人が乗る5百石廻り船「颯天丸」が、途中で難破してしまいます。 漂流し、辿り着いたのがフィリピン北部のバタン島に流れ着きます。
「馬鹿野郎、忘れたか? おれたちはな、生きているだけで儲けものなんだよ。十五人の仲間が、ひとりも欠けることなく島に辿り着いたことは、頭の誇りなんだ。病も怪我もなく、こうして達者でいる。それだけで、十分さ」その島で…。 どのようにして日本に戻るのか…。 鎖国の日本へ戻った彼らを待ち受けていたのは…。 そして…。 彼らの知恵と技術、そして逞しさに、勇気がもらえました。思わず涙が…。 お薦めの一冊です。 【関連】 ◇『姥玉みっつ』(西條奈加・著)(2024/05/06 集団「Emication」) ◇『隠居おてだま』(西條奈加・著)(2023/08/27 集団「Emication」) ◇『心淋し川』(西條奈加・著)(2021/03/11 集団「Emication」)